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2026.01.07
人事労務の生成AI活用に潜む「落とし穴」。社労士が解説する5つの法的リスクと実務対策

人事労務の生成AI活用に潜む「落とし穴」。社労士が解説する5つの法的リスクと実務対策

「AIのおかげで、事務作業が年間数万時間も削減された」 そんなニュースを当たり前のように目にするようになった2026年。自社でもChatGPTなどの生成AIを導入し、業務改善を進めている経営者様や人事担当者様も多いのではないでしょうか。

確かに、文書作成や問い合わせ対応においてAIは頼もしいパートナーです。しかし、人を扱う「人事労務」の現場において、AIを安易に導入・運用することは、情報漏洩や予期せぬ法違反(コンプライアンス違反)のリスクと隣り合わせでもあります。

今回は、政府ガイドラインや最新の法的見解に基づき、人事労務で特に注意すべき「5つのリスク」と、今日からできる「具体的な対策」について分かりやすく解説します。

【リスク1】個人情報の「学習利用」による漏洩リスク

最も警戒すべきは、入力したデータがAIの「学習データ」として再利用され、社外へ流出してしまうリスクです。

人事部門は、従業員の給与、評価、健康診断の結果など、極めて機微な個人情報を取り扱います。これらを一般的な無料版の生成AIにそのまま入力することは、個人情報保護法違反となる可能性が高いだけでなく、従業員からの信頼を根底から損なう重大な事態になりかねません。

【対策】
「個人名は入れない」「Aさん、Bさんに書き換える」といったアナログな対策だけでは、ヒューマンエラーを防げないケースが増えています。 個人情報保護委員会の注意喚起に従い、入力データが学習に使われない「オプトアウト設定(学習拒否設定)」を行うか、セキュリティが担保された「法人向け有料プラン(API利用など)」の導入が必須です。まずは自社のAI設定がどうなっているか、確認することから始めましょう。

【リスク2】AIの「もっともらしい嘘」が招く労基法違反

生成AIは事実を正確に検索するデータベースではなく、言葉の確率的なつながりを予測して文章を生成するツールです。そのため、自信満々に嘘をつく「ハルシネーション」と呼ばれる現象が発生することがあります。

例えば、就業規則の改定や労務相談の回答案をAIに丸投げした結果、現行の労働基準法とは異なる誤った解釈が出力され、それに気づかず運用してしまったら…。知らなかったでは済まされない法違反につながる懸念があります。

【対策】
AIはあくまで「下書き作成」のツールと割り切りましょう。 最終的な法的整合性のチェックは、必ず人間の目、特に専門知識を持つ担当者や社労士による確認プロセスを経て行う必要があります。「AIが言ったから正しい」という過信は禁物です。

【リスク3】採用・評価における「無意識のバイアス(差別)」

欧州(EU AI法)では、採用や人事評価にAIを使うことは「高リスク」と分類されています。 AIは過去の膨大なデータを学習していますが、そのデータ自体に過去の社会的偏見(性別や学歴による偏りなど)が含まれている場合、AIがそれを増幅し、差別的な選考結果を出力してしまう恐れがあるのです。

日本でも、男女雇用機会均等法や職業安定法の観点から、AIによる自動選別が不当な差別につながらないよう、十分な配慮が求められます。

【対策】
AIを選考の合否判定に直接使わず、あくまで「補助資料」として扱うこと。 また、なぜ不採用になったのかを説明できない「ブラックボックス」な状態でのAI利用は避けるべきです。「なぜその評価になったのか」を人間が説明できる体制を整えましょう。

【リスク4】著作権侵害:社内研修資料作成の落とし穴

社内報や研修資料の作成で、画像生成AIなどを使うケースが増えています。 しかし、特定のキャラクターや既存の著作物に酷似した生成物を配布することは、著作権侵害のリスクがあります。「社内利用だから大丈夫だろう」と思いがちですが、コンプライアンス意識の高い企業では大きな問題となり得ますし、SNSなどで拡散されるリスクもゼロではありません。

【対策】
文化庁の「AIと著作権に関する考え方」を理解し、特定の作品に似せるような指示(プロンプト)を出さないことが重要です。生成された画像が既存の作品と似ていないか確認するフローを入れましょう。

【リスク5】効率化の逆説?「隠れ残業」と労働時間管理

AI導入で業務効率が上がったはずなのに、浮いた時間でさらに多くの業務を詰め込んだり、AIが出力した内容の修正(ファクトチェック)に予想以上の時間がかかったりして、かえって長時間労働を招くことがあります。

また、テレワーク下などでAIを使いこなす社員とそうでない社員の間に生産性の格差が生まれ、従来の評価制度との整合性が取れなくなるという新たな課題も顕在化しています。

【対策】
単にAIツールを入れるだけでなく、「削減できた時間で何をするか(クリエイティブな業務への転換など)」という業務設計が大切です。また、AI活用を前提とした評価制度の見直しをセットで行うことを推奨します。

【まとめ】
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生成AIは正しく使えば、人事労務の業務を劇的に効率化し、皆さんが「人」と向き合う時間を増やしてくれる頼もしいパートナーになります。 重要なのは「リスクを知った上で、ルールを作って使うこと」です。

また、専門性の高い分野について、必ず最後に人間の目でチェックを行うことが重要です。
労務に関連した内容で、本当にその対応が正しいかどうか、
判断に迷われる場面で専門家である社労士にまずはご相談ください。
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