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【2024-2025年 金融庁・厚労省資料より解説】次期年金制度改正の全体像:働き方や老後資金はどう変わる?
私たちの未来の暮らしに関わる「次期年金制度改正」が始まります
私たちの働き方やライフスタイルの変化に合わせ、公的年金制度を未来につなぐための「次期年金制度改正」の議論が進んでいます。公的年金は、基礎年金、厚生年金、企業年金などからなる「3階建て」の構造で、老後の生活を支える重要な土台です。
今回の改正が目指すのは、働き方や家族の形の多様化に対応し、今の受給者と未来の受給者、両方の生活を安定させることです。
特に、パート・アルバイトの方の社会保険加入の拡大や、シニア世代の働き方に関わる在職老齢年金の見直しなど、私たちの暮らしに直結する重要な変更点がたくさん含まれています。
この記事では、年金のプロである社会保険労務士が、改正の主要なポイントを5つに絞って分かりやすく解説します。
1. パート・アルバイトの社会保険加入がさらに拡大
週20時間以上で加入へ。企業規模や賃金の要件がなくなります
今回の改正で、パート・アルバイトなど短時間で働く方の社会保険(厚生年金・健康保険)加入ルールがより分かりやすくなり、多くの方が手厚い保障を受けられるようになります。
これまで、短時間労働者の方が社会保険に加入するには、会社の従業員数や月収(8.8万円以上)といった条件がありましたが、これらが段階的になくなります。
企業規模要件の撤廃:
現在は従業員51人以上の企業などが対象ですが、段階的にこの人数要件がなくなり、最終的には企業の規模にかかわらず「週20時間以上」働けば社会保険に加入できるようになります。
賃金要件(月額8.8万円以上)の撤廃:
「年収106万円の壁」の一因となっていたこの要件も、最低賃金の引き上げ状況を見ながら撤廃される予定です。
これまで国民年金に加入していた方(第1号被保険者)が、会社の厚生年金・健康保険に加入する(第2号被保険者)ことで、保険料の半分を会社が負担してくれるという大きなメリットがあります。これにより、将来受け取る年金額が増えるだけでなく、病気やケガで働けなくなった際の傷病手当金などの保障も手厚くなります。
2. シニアの活躍を後押しする在職老齢年金制度の見直し
年金が減額される基準が「月収50万円」から「月収62万円」へ
健康で長く働き続けたいと考える意欲的なシニア世代が増えています。
現在の在職老齢年金制度は、給与(賞与込みの年収を12で割った額)と厚生年金の合計が月50万円を超えると、年金の一部がカットされる仕組みです。これが、働く意欲をやや妨げているとの指摘がありました。
今回の改正では、意欲的に働き続けられるように、この年金減額の基準額を50万円から62万円へ引き上げることが予定されています。
これにより、給与と年金の合計が62万円に達するまでは年金が減額されなくなり、シニア世代が収入を気にせず、より柔軟に働き方を選べるようになります。
3. 高所得者層の保険料と年金額のバランスを適正化
賃金に見合った保険料負担で、将来の年金額もアップ
厚生年金の保険料は、毎月の給与(標準報酬月額)と賞与を基に計算されます。
しかし現在、この標準報酬月額には65万円という上限があります。そのため、月収が65万円を大きく超える方(年収1,000万円程度が目安)は、実際の収入に見合った保険料を納めておらず、その結果、将来受け取る年金額も収入に比べて少なくなるという課題がありました。
そこで、この標準報酬月額の上限が、2029年9月までに段階的に75万円まで引き上げられる予定です。
対象となる方や企業は保険料の負担が増えますが、その分、将来受け取る終身年金の額もアップします。例えば、上限が75万円になった場合、本人の保険料負担は年間約11万円増えますが、将来の年金額は年間約12.2万円増える見込みです。
4. 遺族年金の男女差を解消し、「こどもへの加算」を拡充
遺族厚生年金の男女差がなくなり、遺族基礎年金はこどもが直接受け取れるように
【遺族厚生年金の男女差を解消】
これまで遺族厚生年金の受け取りには男女で条件に差がありましたが、これが解消されます。
改正前: お子さんがいない30歳未満の妻は「5年間の有期給付」でしたが、夫は55歳未満の場合、受給資格がありませんでした。
改正後: お子さんがいない60歳未満の妻・夫ともに、原則として「5年間の有期給付」を受けられるようになります。
これにより、性別にかかわらず、残された配偶者の生活を支える仕組みが強化されます。
【遺族基礎年金はこどもが主体に】
これまでは、親の一方が亡くなっても、もう一方が存命の場合、こども自身が遺族基礎年金を受け取ることはできませんでした。改正後は、親の状況にかかわらず、こどもが遺族基礎年金を受給できるようになります。
【子の加算額も大幅アップ】
年金を受給しながら子育てをする方への加算額も、以下のように大幅に引き上げられます。
第1子・第2子: 年額234,800円 → 281,700円へ
第3子以降: 年額 78,300円 → 281,700円へ
5. 日本の年金制度を支える「ハイブリッド方式」の仕組み
年金の財源はどうなってる?現役世代と積立金の「いいとこ取り」
最後に、日本の公的年金制度がどのような仕組みで支えられているのかをご紹介します。年金の財政方式には、大きく2つのタイプがあります。
賦課(ふか)方式:
その時代に働く現役世代が納める保険料を、その時代の年金受給者への支払いに充てる仕組み。世代間の支え合いです。
積立方式:
自分が将来受け取るために、保険料を積み立てて運用していく仕組み。iDeCo(個人型確定拠出年金)などがこれにあたります。
日本の公的年金は、この2つを組み合わせた**「ハイブリッド方式」**を採用しています。
年金の財源は、現役世代からの保険料(約7割)と税金(約2割)を基本としながら、過去の世代が積み立ててきた潤沢な積立金(GPIFなどが運用)も活用しています。この「支え合い」と「自分たちのための積立」を組み合わせることで、少子高齢化が進む中でも、制度の安定性を長期的に確保しているのです。