雇用保険法、労災保険法、高年齢者雇用安定法等の一部改正
○雇用保険法等の一部を改正する法律(令和2年法律第14号)
★概要のみ紹介
[1] 雇用保険法の一部改正関係
1 目的の改正
労働者が子を養育するための休業をした場合に必要な給付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図ることを雇用保険の目的として追加することとされた。
2 育児休業給付の新しい給付の体系への位置付け
⑴ 育児休業給付金について、失業等給付の雇用継続給付から削除するとともに、失業等給付とは別の章として育児休業給付の章を新設することとされた。
⑵ 改正前の育児休業給付金に係る規定を削除するとともに、⑴で新設する章に同内容を規定することとされた。
⑶ 失業等給付で措置されている未支給の失業等給付、返還命令等、受給権の保護及び公課の禁止の規定について、育児休業給付について準用することとされた。
⑷ 国庫は、育児休業給付について、当該育児休業給付に要する費用の8分の1を負担することとされた。
⑸ 一般保険料徴収額に育児休業給付率(1,000分の4の率を雇用保険率で除して得た率をいう。[4]の2において同じ。)を乗じて得た額は、育児休業給付に要する費用に充てることとされた。
3 高年齢被保険者の特例
⑴ 次に掲げる要件のいずれにも該当する者が、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣に申し出た場合には、当該申出を行った日から高年齢被保険者となることができることとされた。
① 二以上の事業主の適用事業に雇用される65歳以上の者であること。
② 一の事業主の適用事業における一週間の所定労働時間が20時間未満であること。
③ 二の事業主の適用事業(申出を行う労働者の一の事業主の適用事業における一週間の所定労働時間が厚生労働省令で定める時間数以上であるものに限る。)における一週間の所定労働時間の合計が20時間以上であること。
⑵ 事業主は、労働者が⑴の申出をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこととされた。
4 被保険者期間の計算方法の改正
被保険者期間が12箇月(特定理由離職者及び特定受給資格者にあっては6箇月)に満たない場合は、賃金の支払の基礎となった日数が11日以上であるもの又は賃金の支払の基礎となった時間数が80時間以上であるものを1箇月として計算することとされた。
5 高年齢雇用継続給付の改正
高年齢雇用継続基本給付金及び高年齢再就職給付金の額は、各支給対象月に支払われた賃金の額に100分の10(当該賃金の額が、みなし賃金日額に30を乗じて得た額の100分の64に相当する額以上であるときは、みなし賃金日額に30を乗じて得た額に対する当該賃金の額の割合が逓増する程度に応じ、100分の10から一定の割合で逓減するように厚生労働省令で定める率)を乗じて得た額とすることとされた。
6 雇用安定事業の改正
[5]の1の高年齢者就業確保措置の実施等により高年齢者の雇用を延長する事業主に対して、必要な助成及び援助を行うことについて、雇用安定事業として行うことができることとされた。
7 会計法の特例
年度の平均給与額が修正されたことにより、厚生労働大臣が自動変更対象額、控除額又は支給限度額を変更した場合において、当該変更に伴いその額が再び算定された失業等給付及び育児休業給付があるときは、これらに係る未支給の失業等給付及び育児休業給付の支給を受ける権利については、会計法第31条第1項の規定を適用しないこととされた。
8 報告徴収及び立入検査の対象の追加
報告徴収及び立入検査の対象に、被保険者等を雇用し、又は雇用していたと認められる事業主を追加することとされた。
9 国庫負担の改正
⑴ 令和2年度及び令和3年度の各年度における失業等給付、育児休業給付等の支給に要する費用に係る国庫の負担額については、国庫が負担すべきこととされている額の100分の10に相当する額とすることとされた。
⑵ 雇用保険の国庫負担については、引き続き検討を行い、令和4年4月1日以降できるだけ速やかに、安定した財源を確保した上で雇用保険法附則第13条に規定する国庫負担に関する暫定措置を廃止することとされた。
[2] 労働者災害補償保険法の一部改正関係
1 目的の改正
事業主が同一人でない二以上の事業に使用される労働者(以下「複数事業労働者」という。)の二以上の事業の業務を要因とする事由による負傷、疾病、障害又は死亡に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、複数事業労働者の二以上の事業の業務を要因とする事由により負傷し、又は疾病にかかった労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もって労働者の福祉の増進に寄与することを労働者災害補償保険の目的として追加することとされた。
2 複数事業労働者に対する新たな保険給付の創設
業務災害に関する保険給付及び通勤災害に関する保険給付と並び、複数事業労働者の二以上の事業の業務を要因とする負傷、疾病、障害又は死亡に関する保険給付を創設することとされた。
3 給付基礎日額の算定方法の特例
複数事業労働者の業務上の事由、複数事業労働者の二以上の事業の業務を要因とする事由又は複数事業労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡により保険給付を行う場合は、当該複数事業労働者を使用する事業ごとに算定した給付基礎日額に相当する額を合算した額を基礎として、厚生労働省令で定めるところによって政府が算定する額を給付基礎日額とすることとされた。
4 会計法の特例
年度の平均給与額等が修正されたことにより、厚生労働大臣が労働者災害補償保険法第8条の2第1項第2号に規定する厚生労働大臣が定める率、同法第8条の3第1項第2号に規定する厚生労働大臣が定める率等を変更した場合において、当該変更に伴いその額が再び算定された保険給付があるときは、当該保険給付に係る未支給の保険給付の支給を受ける権利については、会計法第31条第1項の規定を適用しないこととされた。
[3] 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律の一部改正関係
1 国の施策
国が総合的に取り組まなければならない事項として、次に掲げるものを追加することとされた。
⑴ 労働者の職業選択に資するよう、雇用管理若しくは採用の状況その他の職場に関する事項又は職業に関する事項の情報の提供のために必要な施策を充実すること。
⑵ 高年齢者の職業の安定を図るため、高年齢者雇用確保措置等の円滑な実施の促進のために必要な施策を充実すること。
2 中途採用に関する情報の公表を促進するための措置等
⑴ 常時雇用する労働者の数が300人を超える事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、雇い入れた通常の労働者等に占める中途採用により雇い入れられた者の割合を定期的に公表しなければならないこととされた。
⑵ 国は、事業主による⑴の割合その他の中途採用に関する情報の自主的な公表が促進されるよう、必要な支援を行うこととされた。
[4] 労働保険の保険料の徴収等に関する法律の一部改正関係
1 労災保険率の算定方法の改正
[2]の2及び3に伴い、複数事業労働者の場合における労災保険率の算定方法について所要の規定の整備を行うこととされた。
2 雇用保険率の弾力的変更の算定方法の改正
労働保険特別会計の雇用勘定の積立金の状況による雇用保険率の変更に係る算定において、教育訓練給付の額と雇用継続給付の額を除いて算定するとともに、算定で用いる国庫の負担額から育児休業給付に要する費用に係る国庫の負担額を除き、算定で用いる徴収保険料額から一般保険料徴収額に育児休業給付率を乗じて得た額を新たに除くこととされた。
3 二事業率の弾力的変更の範囲の改正
労働保険特別会計の雇用勘定における雇用安定資金の状況による雇用保険率の変更が行われた場合において、厚生労働大臣は、雇用安定資金の状況に鑑み、必要があると認めるときは、労働政策審議会の意見を聴いて、1年以内の期間を定め、雇用保険率を当該変更された率から1,000分の0.5の率を控除した率に変更することができることとされた。
4 雇用保険率の改正
令和2年度及び令和3年度の各年度における雇用保険率については、1,000分の13.5(うち失業等給付に係る率1,000分の6)(農林水産業及び清酒製造業については1,000分の15.5(同1,000分の8)、建設業については1,000分の16.5(同1,000分の8))とすることとされた。
〈補足〉この率に、弾力的変更の規定が適用される。
[5] 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部改正関係
1 高年齢者就業確保措置
⑴ 定年(65歳以上70歳未満のものに限る。以下同じ。)の定めをしている事業主等は、その雇用する高年齢者等について、次に掲げる措置を講ずることにより、65歳から70歳までの安定した雇用を確保するよう努めなければならないこととされた。
ただし、当該事業主等が、労働者の過半数を代表する者等の同意を厚生労働省令で定めるところにより得た創業支援等措置を講ずることにより、その雇用する高年齢者等について、定年後等から70歳までの間の就業を確保する場合は、この限りでないこととされた。
① 当該定年の引上げ
② 65歳以上継続雇用制度(その雇用する高年齢者等が希望するときは、当該高年齢者等をその定年後等に引き続いて雇用する制度をいう。⑶及び⑷において同じ。)の導入
③ 当該定年の定めの廃止
⑵ ⑴の創業支援等措置は、次に掲げる措置をいうこととされた。
① その雇用する高年齢者等が希望するときは、当該高年齢者等が新たに事業を開始する場合等に、事業主が、当該事業を開始する当該高年齢者等との間で、当該事業に係る委託契約等(労働契約を除き、当該委託契約等に基づき当該事業主が当該事業を開始する当該高年齢者等に金銭を支払うものに限る。)を締結し、当該委託契約等に基づき当該高年齢者等の就業を確保する措置
② その雇用する高年齢者等が希望するときは、次に掲げる事業(ロ又はハの事業については、事業主と当該事業を実施する者との間で、当該事業を実施する者が当該高年齢者等に対して当該事業に従事する機会を提供することを約する契約を締結したものに限る。)について、当該事業を実施する者が、当該高年齢者等との間で、当該事業に係る委託契約等(労働契約を除き、当該委託契約等に基づき当該事業を実施する者が当該高年齢者等に金銭を支払うものに限る。)を締結し、当該委託契約等に基づき当該高年齢者等の就業を確保する措置
イ 当該事業主が実施する社会貢献事業(社会貢献活動その他不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与することを目的とする事業をいう。ロ及びハにおいて同じ。)
ロ 法人その他の団体が当該事業主から委託を受けて実施する社会貢献事業
ハ 法人その他の団体が実施する社会貢献事業であって、当該事業主が社会貢献事業の円滑な実施に必要な資金の提供その他の援助を行っているもの
⑶ 65歳以上継続雇用制度には、事業主が、他の事業主との間で、当該事業主の雇用する高年齢者等であってその定年後等に雇用されることを希望するものを、その定年後等に当該他の事業主が引き続いて雇用することを約する契約を締結し、当該契約に基づき当該高年齢者等の雇用を確保する制度が含まれることとされた。
⑷ 厚生労働大臣は、⑴に掲げる措置及び創業支援等措置(⑸において「高年齢者就業確保措置」という。)の実施及び運用(心身の故障のため業務の遂行に堪えない者等の65歳以上継続雇用制度及び創業支援等措置における取扱いを含む。)に関する指針を定めることとされた。
⑸ 厚生労働大臣は、高年齢者等職業安定対策基本方針に照らして、高年齢者の65歳から70歳までの安定した雇用の確保その他就業機会の確保のため必要があると認めるとき等に、事業主に対し、高年齢者就業確保措置の実施について必要な指導及び助言をすること並びに高年齢者就業確保措置の実施に関する計画の作成等を勧告することができることとされた。
⑹ 事業主による厚生労働大臣への報告事項に、創業支援等措置等に関する状況を追加することとされた。
[6] 特別会計に関する法律の一部改正関係
1 育児休業給付資金の創設
⑴ 雇用勘定に育児休業給付資金を置き、同勘定からの繰入金及び⑶による組入金をもってこれに充てることとされた。
⑵ ⑴の雇用勘定からの繰入金は、予算で定めるところにより、繰り入れることとされた。
⑶ 雇用勘定において、毎会計年度の育児休業給付費充当歳入額から当該年度の育児休業給付費充当歳出額を控除して残余がある場合には、当該残余のうち、育児休業給付費に充てるために必要な金額を、育児休業給付資金に組み入れることとされた。
⑷ 雇用勘定において、毎会計年度の育児休業給付費充当歳入額から当該年度の育児休業給付費充当歳出額を控除して不足がある場合その他政令で定める場合には、政令で定めるところにより、育児休業給付資金から補足することとされた。
⑸ 育児休業給付資金は、育児休業給付費及び特別会計に関する法律第102条第3項の規定による雇用勘定からの徴収勘定への繰入金(労働保険料の返還金の財源に充てるための額に相当する額の繰入金に限る。)を支弁するために必要がある場合には、予算で定めるところにより、使用することができることとされた。
⑹ 育児休業給付資金の受払いは、財務大臣の定めるところにより、雇用勘定の歳入歳出外として経理することとされた。
2 繰替使用の改正
雇用勘定においては、同勘定の積立金、育児休業給付資金又は雇用安定資金に属する現金をそれぞれ繰り替えて使用することができることとされた。
[7] 検討
⑴ 政府は、[3]の2(中途採用に関する情報の公表を促進するための措置等)の施行後5年を目途として、[3]の2について、その施行の状況を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずることとされた。
⑵ 政府は、[1]の3(高年齢被保険者の特例)の施行後5年を目途として、[1]の3の⑴について、これに基づく適用の状況、これにより高年齢被保険者となった者に対するこの法律による改正後の雇用保険法に基づく給付の支給状況等を勘案しつつ、二以上の事業主の適用事業に雇用される労働者に対する同法の適用等について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずることとされた。
この法律は、令和2年4月1日から施行
ただし、次に掲げる事項は、それぞれ次に定める日から施行
[1]の4……令和2年8月1日
[2]の1から3まで及び[4]の1……公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日
[1]の6、[3]、[4]の3及び[5]……令和3年4月1日
[1]の3……令和4年1月1日
[1]の5……令和7年4月1日